子どもの最善の利益に沿った教育改革のために―― 「多様な教育機会確保法(案)」のさらなる検討を

超党派の議員連盟が、フリースクールや家庭など学校以外での教育機会を、「義務教育」として認める法案化を進めている。いわゆる「多様な教育機会法(案)」である。

いじめをはじめ様々な理由で登校できない小中学生(年間30日以上の欠席者)は、過去20年、毎年10万人以上にのぼり、これらの子どもの学習権は十分に保障されてきたとは言えなかった。

したがって今回の法案は、不登校の子どもの学習機会を保障する点で画期的であるのだが、実施に当たっては実際に現実化できるのか大きな課題を抱えている。

その一つがこの法案の仕組みを支える人的、及び財政的保障の課題である。今回の法案では、家庭が子どもの学ぶ場を学校以外に求める際、フリースクールやNPO、学校などから助言を得て「個別学習計画」を作り、市町村教育委員会に申請することになる。
教育委員会は「教育支援委員会」を設けてこれを審査するのであるが、いじめをはじめ様々な理由から学校に行けない子どもとその家庭が抱える課題はそれぞれ個別性があり、深い「困難」を抱えているケースも多く、誰がどのように支援するのか、具体的に学習計画を作成し実行に移すには相当の知恵と工夫が必要になる。
当然、支援する担当者は、子どもだけでなく家庭への支援も必要とし多様な専門性と労力を要する。

したがって、今回の法案を現実化するには、教育委員会と学校は従前の体制では間に合わないことは明らかで、新たに職員や専門家を確保しなければならなくなる。
またフリースクールや不登校の子どもの居場所を運営するNPOやボランティア団体との連携はもとより、それらの組織への財政的支援も必要になるだろう。今回の法案がそのような点も十分に踏まえて提案されているかと言えば心もとない。

もう一つは、不登校の子どもに「多様な学習機会の確保」はいいことだが、そもそもより多くの子どもが安心して登校できるような、学校、家庭、地域の改革を同時に進める視点を見失わないことである。
そのためにも、子どもの権利条約で謳われている「子どもの最善の利益」に沿った教育改革を地道に進めたい。

議員の皆さんには、不登校の子どもやその環境への対応に日夜努力している学校、家庭、適応指導教室、さらに地域で活動するフリースクールやNPOの状況をしっかり見ていただき、この法案が実質的に子どもの多様な学びの場を保障するものとなるよう、さらに検討していただきたい。

文:松浦善満(龍谷大学教授)
「インファーノ」No.50(2015年9月25日発行)より